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2012-05-06

WHYからはじまる競争戦略とリーンスタートアップ

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「偉大なる企業、リーダーには共通するパターンがある」

「勝てる戦略には共通のパターンは無いが、共通の論理がある」

「スタートアップが失敗しないためには、効果的な科学的なアプローチがある」

 

一度の成功なら時代の流れとタイミング、そして運などによってたまたまラッキーパンチが打てるかもしれない。ただし、成長し続ける事業、企業を創るためにはラッキーパンチではなく、自社のおかれた環境やその時々の文脈を踏まえた上で「勝ち続ける」ための戦略や、普遍的に有効な成功へのパターンを見つけ出し、成功への「再現性」「持続可能性」を高め続けていかなければならない。この「再現性」「持続可能性」が個人的にも目下の課題なのですが、それを生むための共通の考え方、パターン、プロセスを学ぶ過程において、ある種必然的に各種方法論における「共通点」を見出したりしています。

前述した3つのイシューは、ここ1〜2年に読んだ本の中でベスト10に入るとある3冊の本がそれぞれ解き明かして行く内容なのですが、租借するうちにこの3つの中に共通点があることに気づきました。それはまさに成長し続ける事業、企業を創るための「再現性」「持続可能性」を高める上で強力な考え方であると思います。今回はこの「成功則に共通する方法論」を実際の企業の事例を交えながらここにまとめておきたいと思います。かなりマニアックな内容ですが、もの好きな方は最後までお付き合いください。

先ずはその3冊を簡単に紹介します。

「偉大なる企業、リーダーには共通するパターンがある」

TEDの動画が有名なので、そちらをご覧になった方も多いと思います。ここで出てくる「ゴールデンサークル」というのがその共通するパターンをいとも簡単に説明する最強のツールなのですが、今回のエントリーにおいてもこの「ゴールデンサークル」がすべての軸となります。

「勝てる戦略には共通のパターンは無いが、共通の論理がある」

 戦略系の本はそれこそポーターをはじめ色々ありますが、中でもこの本が個人的には一番しっくりきています。「戦略とは、特定の文脈に埋め込まれた特殊解」としつつ、すべてに共通する戦略のテンプレートは無いが、共通する”論理”はあるというのが本書のポイントです。中でも戦略を2つのパターン大別する考え方「SPとOC」に関する理解と応用が、すべてのストーリーにおいて生きてきます。

「スタートアップが失敗しないためには、効果的な科学的なアプローチがある」

 本書はスタートアップ界隈では説明不要だと思いますが、今回は特に「ピボット」に関する点において共通項をまとめたいと思います。
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1.すべてはWHY(ビジョン)から始まる

 もし「ゴールデンサークル」に関して知識が無ければ、先ずはこちらのTEDの動画を観ることをおすすめまします。
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 継続的にイノベーションを起こし続けているような偉大なリーダー、企業はすべて「WHY」という、なぜこの事業をしているのか?どんな理念や大義を持って仕事をしているのか?という根本的な部分から考え、そしてこの「WHY」からユーザーへコミュニケーションをはかります。だからAppleのように「WHY」が明確でその「WHY」に一度共感してしまえば滅多なことが無い限りユーザーは離れません。ここでいうAppleの「WHY」は、例えば「現状に挑戦し、他社とは違う考え方をする」という風に表現できるでしょう。こちらの有名なマーケティングキャンペーンを見れば、Appleがすべて「WHY」から始めているというのもうなずけますね。

[youtube http://www.youtube.com/watch?v=Nbsi2I0GXPk?wmode=transparent]

したがって、事業や企業としてのイノベーションを起こし続けるためには、またそれらの「再現性」「持続可能性」を高めるためには、先ず大前提のベースとしてこの「すべてをWHYからはじめる」ことへの意識を叩き込んでおかなければなりません。企業として投資家やステークホルダー、消費者へのメッセージとしても、各種サービスにおけるユーザーへのコミュニケーションメッセージとしても。「WHY」を先ず最初に明確にし、社内のコンセンサスを取り、すべてを「WHY」から始める必要があります。
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2.ゴールデンサークルにおける「戦略論」

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このシンプルなゴールデンサークルですが、これはあくまで「WHY」から始めるという考え方の概念図です。常に「WHY」からはじめよう、というコミュニケーション要素を踏まえつつ、ここにより「戦略性」を加味した要素を「ストーリーとしての競争戦略」にて推奨するSP(Strategic Positioning)とOC(Organization Capability)という概念を用いて強化することによって、「思考ツールとしてのゴールデンサークル」を「戦略テンプレートとしてのゴールデンサークル」へと昇華させることができないかと思います。

その前に、簡単にSPとOCに関して説明します。かなりシンプルな「戦略のパターン分け」の話なのですが、色々な戦略論の中でも特に目から鱗で、このシンプルなパターンを頭に入れておくだけで様々な業界での「勝ちパターン」を簡単に理解することができると思います。

先ず、戦略とは本質的に”競争環境”において「他社との違いをつくること」にほかなりません。戦略=違いをつくる、とすれば、そのアプローチとしては2つのパターンがあります。
  • ポジショニング:SP(Strategic Positioning)
  • 組織能力:OC(Organization Capability)
SPはその名の通りポジショニングの戦略です。つまり他社と違うところに自社を位置づけることです。いわゆるポーターの戦略論はすべてこちらの範疇です。何をやり、何をやらないかという意思決定をする。競争上必要なトレードオフを作り出すことがSPの目的です。Instagramが最近までiOSのみに特化してサービスを改善し続けてきたことや、Facebookが最初は大学のみのエクスクルーシブネットワークからはじめたことなどは、SPをベースにした戦略的意思決定と理解できます。

それに対して、OCは組織能力による差別化であり、他社には簡単に真似できない組織やルーチンの仕組みとしての強みのことです。表面的には真似することができても、実際の組織内での実行レベルでは中々真似できないものであり、かつ時間とともに常に進化していくものなので、SPのうような短期的な戦略的意思決定よりも、中長期での競争優位性となるのがOCです。Facebookで言えばザッカーバーグの強烈なリーダーシップをベースとした「ハッカーウェイ」を体現する組織がOCと言えるでしょう。また、トヨタでいえばカンバン方式やジャストインタイムといった”極力ムダを排除する”プロセスの改善である「リーン生産方式」がOCであり、実はここがリーン生産方式に立脚する「リーンスタートアップ」の話ともつながります。つまり「リーンスタートアップ」の科学的なアプローチは、様々な成功事例と数多くの失敗事例から持続的に成長可能なスタートアップを創るためのプロセス(OC)を科学的に解き明かし、それをどのスタートアップにも適用可能なプロセス論へと落とし込んだものになります。

説明が長くなりましたが、要は「勝ち続ける」企業や事業を創るためには、SP(戦略的ポジショニングの意思決定)とOC(他社が真似できない組織の強み)の両方を明確にし、その両方をエンパワーする施策を忠実に実行していくことが大事であると理解できるでしょう。そこで、戦略的テンプレートとして先ほどのゴールデンサークルにこのSPとOCを当てはめると以下のようになります。

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つまり「戦略=HOW」であり、その「HOW」の構成要素が「SPとOC」、そして何より重要なのがその順番です。必ずWHYからはじまり、次にOCを生かしつつSPで戦略的ポジショニングを行うということです。戦略において、あくまでベースはOCということになります。それを裏付ける事例として、マクドナルドを例にあげたいと思います。

 以下に示すのは、7年連続でマイナスだった売り上げを、就任後7年連続でプラスへ変えた原田さんの経営改革のベースとなる成長戦略を図示したものです。

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ここで原田さんが強調するのが、マクドナルドにとってすべての土台となるのが「QSC (Quality, Service, Cleanliness)&メイドフォー・ユー」であり、就任後先ず最初に着手したのが基本に立ち返ってのサービスクオリティの向上でした。特にメイドフォー・ユーのシステムは、今までの作り置きでの提供を一切廃止し、注文を受けてからできたてを提供するというもので、何よりスゴいのが今ではその平均提供時間が50秒と、過去の作り置きの提供時間よりも短い時間で提供できるようになったそうです。こういった仕組みの改善による組織、プロセスの強みはまさにOCの戦略と言えるでしょう。また、このベースが無ければその上にあるバリュー戦略や新商品の戦略も全く無意味になものになるということです。実際マクドナルドをゴールデンサークルに当てはめると以下のようになります。

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あくまで中心のWHYであるビジョンからすべてはスタートし、OC(QSC & メイドフォー・ユー)という他社には真似できない強みを土台としていかしながら、低価格で価格以上の価値を提供するバリュー戦略や徹底的に”マックらしさ”を追求した新商品戦略によって、結果として100円マックやビックアメリカなど一般消費者が知るアウトプットが出てくるという形です。このように”戦略ゴールデンサークル”を用いると正しい優先順位をシンプルに表現でき、戦略テンプレートとしてもコミュニケーションツールとしても汎用的に活用できるのではないでしょうか。

 

3.WHYを軸にピボットする

 

最後に、前述しました「リーンスタートアップ」における”戦略ゴールデンサークル”の適用を考えてみたいと思います。

仮説と検証を繰り返し、ユーザーにどう使ってもらいたいかではなく、ユーザーがどう使っているかをベースに方向転換(ピボット)するというのが「リーンスタートアップ」における方法論のハイライトならば、ここで”戦略ゴールデンサークル”は力を発揮するツールになると思います。実際、「リーンスタートアップ/エリック・リース」の中でも下記左図のようなピラミッドの概念が登場し、これはまさにゴールデンサークルに置き換えることができます。

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ここで、WHYという軸足は変えずに、仮説と検証のプロセスによって戦略(HOW)と製品(WHAT)を方向転換するというのがリーンスタートアップにおけるピボットの方法論です。アントレプレナー、スタートアップにおいてそもそもの行動の源泉であるWHYはそう簡単に変わる(変える)ものではありません。

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よって、もっと話を突っ込んで考えると、WHYを軸足にしつつも、特に戦略(HOW)の部分においてSPをどのように変えるか(戦略的にポジショニングを変えるか)、またはOCまでピボットすべきなのかを意思決定することが健全なピボットと言えるでしょう。また、本書ではあえて外部環境を踏まえた戦略的観点を含めずに自社のプロセスの改善のみにフォーカスしていますが、”戦略ゴールデンサークル”をピボットにおいても用いる事によってSPとOCを明確に区別した上での戦略性も検討することができるようになるでしょう。

 

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WHYから始めるゴールデンサークルというコンセプト、SPとOCという戦略論におけるシンプルなパターン分け、そしてスタートアップを死の谷から救い上げるピボットという方法論においてそれぞれ共通点を見出しました。成長し続ける事業、再現性、持続可能性がある企業をいかに創るかというのは恐らく永遠のテーマであり、また時代や環境の変化によって大きく変わってくるものだと思います。その中でも、少しでも普遍的で強力なコンセプトやプロセスを発見するために、日々実践と検証を愚直に繰り返しながらの企業努力を重ねていくしかないですね。

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