「コミュニティデザイン」から学ぶリーンスタートアップの極意
私には毎週欠かさず観ているテレビ番組があ1つだけあります。「情熱大陸」と銘打ったその番組は毎週ありとあらゆる方面で特定の何かに情熱を傾ける1人の人物にフォーカスし、短いもので数ヶ月、長いものだと数年の密着取材を重ねてその人の人生を切り取り、ギュッと凝縮した30分にまとめあげます。私がこの番組が好きなのは、自分のリアルコミュニティの中では出会えるはずもない人たちの人生や考え方、そして仕事感に触れられるから。有名芸能人やアスリートから、獣医、ダンサー、登山家まで。そこから得られるモノは、仕事の対象は違えど目の前の仕事に生きる普遍的な教訓や発見も多いのです。
昨年も様々な人の人生の断片に情熱大陸を通じて触れましたが、中でも感銘を受けた人の中のひとりに山崎亮さんという方がいます。彼の職業は「コミュニティーデザイナー」。あまり聞き慣れない職種ですが、主にある問題や課題を抱える地域に対して、そこに住む人と人をつなげたり、コミュニーションが発生する仕掛けを用意するなど、”コミュニティ”をデザインすることによってその地域を活性化させるのがお仕事です。つまり公共空間や景観をデザインする「ランドスケープデザイン」が”ハード”のデザインだとすると、「コミュニティデザイン」はそのハードの上に乗る”ソフト”のデザイン。このハードではなくソフトをデザインする、そのソフトを何を軸にデザインするかというと、人を軸としたコミュニティをデザインするという考え方が、今のスタートアップに非常に重要な概念なのではないかと思うのです。特定のターゲットにフィットしたサービスをつくるだけではなく、どうやってそのサービスをユーザーが発見し、どうやってそのサービスをユーザーがリアル/Web上のコミュニティを通じて拡げていくか。それをソーシャルメディアやリアルコミュニティなど様々な手段を考慮しながら全体としては”人”を軸としてサービス全体をデザインする。また、特に人と人の交流をベースとしたコミュニケーションが軸のサービスであれば、ローンチ後にいかにコミュニティをベースに拡げていけるかがスケールのキモとなります。
そういった山崎さんのコミュニティデザインに関する事例がこちらの著書にまとまっていたので読んでみました。思った通り、特に”リーンスタートアップ”という概念にも通ずるものがこのコミュニティデザインにはありました。そこで、山崎さんのコミュニティデザイン事例から、リーンスタートアップにも通じる極意をまとめたいと思います。
有馬富士公園に学ぶ「キャスト」の役割
山崎さんが手がけた兵庫県の県立公園である有馬富士公園は2001年に開園し、年間40万人の来場者が5年後には70万人を超えるという脅威の結果を残しました。通常は開園時の入場者が最も多く、徐々に来園者は減っていくもの。これを実現したのがコミュニティデザインの概念でした。通常の公園にはその公園を管理運営する「管理者」がいて、その公園に遊びにくる「ゲスト」がいます。管理者はゲストに迷惑がかからないように花を植えたり芝生を刈ったり。ゲストは勝手に遊んで、勝手に帰るだけです。そこに山崎さんはディズニーランドの例に習って「キャスト」の概念を持ち込みました。つまり「管理者」と「ゲスト」の間に入って「ゲスト」を楽しませる存在のことです。ただし、県立公園なので「キャスト」に払う給料はありません。そこで考えたのがキャストも公園利用者で構成するというアイディア。実際その地域の約70以上の団体がその公園を利用することにより、その団体の活動を通じて人が集まる、集まった人がまた公園を利用し、それがまた人を呼び込むという好循環を作り出しました。また、それぞれの団体が「会議室の費用がかさむ」「活動に必要な道具を置く場所がない」といった課題と、公園のキャストが必要だけど給料を払って雇う事はできないという課題をうまくマッチさせている点も含めてコミュニティデザインの真骨頂と言えるでしょう。
コミュニティが生み出すサステナビリティ(持続可能性)
さて、この事例からスタートアップが学べることは何でしょうか。多くのスタートアップは既にある程度のローンチマーケティングの術を身につけているので、メディアへの露出やリリースイベントなど様々な手法によってリリース時に多くの注目を集め、初期にある程度のユーザー数を獲得することはできるでしょう。しかし、リリース時に記録したユーザー数の伸びは直ぐに落ち込み、新規ユーザー数が伸びないどころか日々アクティブユーザー数も減っていくというのが多くのサービスにおけるその後の一般的な道筋と言えるのではないでしょうか。有馬富士公演の事例では、開園後来場者数は伸び続けています。これは「キャスト」の存在に注目し、様々なキャストが独自なコミュニティを形成して場(サービス)を盛り上げ、コミュニティベースで常に人が行き来する仕組みを作りあげたからです。また、その「キャスト」の設置に関しては地域の団体に着目し、彼らの課題をヒヤリングすることによって自社サービスである公園で解決できる課題とフィットさせています。したがって、自社サービスで解決できる課題は何か、そのサービスで解決する対象は誰か、その対象がどういったコミュニティを形成し、サステナビリティ(持続可能性)を持った仕組みを提供できるか、といった問いかけが重要となります。また、スタートアップにおいて「キャスト」という概念は、例えばFoursquareでいうボランティア的に機能するスーパーユーザー、Twitterでいうセレブや有名人ユーザー、または”エバンジェリストユーザー”的にサービスをかなりアクティブに使い、周辺のコミュニティを巻き込めるようなユーザーと置き換えることができますね。これはシンプルに言えば、ユーザーがユーザーを呼ぶ仕組みとも言えるでしょう。場を作り、コミュニティをデザインすることによってそのコミュニティが人を呼び、サービスを活性化し続けるようなプラットフォームとしてのグラウンドデザインです。
どう使われるかをデザインする
有馬富士公園に子供の遊び場をつくることを依頼された山崎さん。公園をつくる際に出た土砂置き場を子供の遊び場にする、という決められた制約条件の中でとった手法は「参加型のデザイン」でした。2回のワークショップを実施し、約200名の小学生とともに様々な遊び場をつくってみてそのワークショップの一部始終を記録、子供たちが目を輝かせているものはどんな時間や空間なのか、仲間と一緒にどんな遊びを生み出すのかなどを読み取って、それをベースにデザインしたそうです。これはピボットのプロセスに近いかもしれませんが、こちら側が想定していた通りにユーザーが行動してくれるとは限りません。むしろ想定外の使い方でも使われないよりはマシなのですが、そういう前提のもとで大枠のターゲットとコンセプトを決めつつ、その中で実際どのように使われるのか、どういうコミュニティがつくられたり、どういうコミュニティにフィットするサービスなのか。そしてそのフィードバックをベースにサービスをデザインしていくというのは今のものづくりのプロセスにおいて大事な要素だと思います。α版、β版としてサービスをリリースし、クローズドな状態でサービスをブラッシュアップさせていく過程にも通じるものがありますね。あくまでそれを使うユーザーがベース。その上で明確なコンセプトを持ちつつも、実際どう使われるかでサービスをアジャストする。これがコミュニティデザインを前提としたものづくりの形なんだと思います。
まとめ
山崎さんは元々ランドスケープデザイナーであり、公共空間や公園をデザインしていく過程で、ものをつくるだけでは解決できない何かがあることに気づきました。それがものというハードではなくコミュニティというソフトのデザインによって解決できることを発見したのです。上記の事例からも分かる通り、場を用意するだけでは駄目で、そこにいかにコミュニティを作り出す、もしくは巻き込むか。インターネットはデジタルに情報を受信、発信していた時代から、人と人をベースとしたソーシャルに情報が流れてく時代だからこそ、人を軸としたコミュニティをデザインするという概念がより大事になるのだと思います。もちろん今までのサービスがそういったコミュニティを全く意識せずつくられて来たわけではありません。しかし、Webの構造がよりソーシャルになり、サービスが増え続けてそれぞれのレベルが高くなっていっているからこそ、ものをつくる側は、よりものづくりにおいて”コミュニティをデザイン”するということも考慮しないとこれからの問題は解決できないということになるのではないでしょうか。
まとめると、今という時代はWebのソーシャル化によって、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアをツールとしてうまく活用しながら、リアル世界のコミュニティデザインのように、Webサービスもハードのデザインとコミュニティデザインとをセットで考えるというのが肝心ということです。
最後に、時間のある方はYouTuneに山崎さんの回がUPされてますので、是非ご覧ください。
[youtube http://www.youtube.com/watch?v=2MyIfnRPj3Y?wmode=transparent]
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